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自分をコーディネートする言葉

11/26は長野県立図書館をお借りして、年内最後のまちの教室。
午前授業は河野聡子さんをお招きして、「言葉」についての授業が開催されました。

「言葉」ってすごいむずかしいものだと思います。自分が思っていることを、細かいニュアンスまできちんと相手に伝えるってすごく難儀。ちがう意味でとらえられてしまうこともしばしばで、よく苦労しています。
そんな中での河野さんの授業!授業の前から目の前に置いてあって気になる「ポジティブな呪いのつみき」の言葉の数々を眺めて、これから展開されるであろう言葉の魅力の数々にわくわくしながら、授業はスタート!

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河野さんは、大学卒業の時期に作品を発表する場が欲しいなと思ったことがきっかけで、TOLTAという場・サークルをつくります。そこから生み出される言葉を使った作品はどれも型破りで、すごくおもしろい!ということで、まず最初にそのTOLTAの作品について、詳しくお話していただきました。

TOLTAの作品は、短歌、詩、音楽、いろんなジャンルを組み合わせて作られています。だから、言葉の魅力がいろんな方向にバグって、アートな作品に変貌を遂げています。
最初のきっかけは、装丁が面白くないな、と思ったことからだそう。
その発想から飛びぬけた作品が生まれます。その中でひときわおもしろいと思ったのが、「トルタロール」。
本って、綴じられています。持ち運べます。あたりまえです。でもそのあたりまえが不満だった河野さんは、本を100mにも及ぶひとつのロールとして作りました。まだカットする前の、紙ができた状態に立ち返ったような見た目…。
そこには100mにわたり4つの物語が書かれているのですが、それは切り売りされるのでだれも全体を読めないというなんとも斬新な作品!続きが気になりすぎて、買った人を探してしまいそうです。

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上の二人が読んでいるのはTOLTA「トルタのマンガ」。マンガはマンガでも、絵のないマンガです。
何を以ってマンガというのか分からなくなりそうですが、読んでみると、別に絵がなくてもコマ割りがあってセリフがあれば、ちゃんとマンガになるのでびっくり!
絵の代わりに、擬音や字体、余白を使って、絵がなくてもどんな場所なのか、登場人物が何人なのか、そのコマにどんな絵が入るのか、想像しながら読むことができるんです。それも人によって想像の仕方が違うので、1人で読むよりもみんなで読むとおもしろいかなあと思います。
この人の想像力を使用し、キャプションを読んで、絵のないところに絵を想像して見るという展覧会も行われたそう。
河野さんが「言葉の説明が生き物に変容していく」と表現されていたのがとても印象的でした。

一通りお話していただいた後、ついに「ポジティブな呪いのつみき」の出番!

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人って、知らないうちに人に言葉の呪いをかけているんだそうです。たとえば、「お前は掃除ができないから結婚できないんだ!」とか、その人を言葉で縛っていると捉えます。「明日学校で会いましょう」も約束だけど、一種の呪い。確かにそれを言われ続けたりしたら、実際は学校で会わなかったとしてもそうなってしまうような、ちょっと催眠術を受けている気持ちになってきます(笑)
ただ、呪いって少しネガティブな響きです。ポジティブな呪いはないのかな?いい呪いをかけたい。そう考えて作ったのが「ポジティブな呪いのつみき」だったそうです。
だからつみきには、ポジティブな言葉ばかりが並んでいます。細長いつみき4面1つひとつに言葉が書かれていて、この言葉は2面2面のペア。「○○なら」「××だ」というひとつのつながりになっているのですが、これを違うつみきと組み合わせると、ちょっと変だけど、それがとんでもなくおもしろい詩になってしまうのです!おもしろい組み合わせを考えてはみんな大笑い!最後はチームでできた詩を発表して、とても盛り上がりました。

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河野さんは、詩人は2タイプいる、という話をされていました。
1人は、自分の言葉があると考えているタイプ。自分を見つめなおすことで、自分の内的な部分から出てくる言葉を使います。
1人は、言葉は外の世界に漂っているものと考えているタイプ。その中からいいものを拾い集めて編集して、自分の言葉として使います。「ポジティブな呪いのつみき」はこちらのタイプですね。
でも、内からだろうが外からだろうが、ちゃんと自分の作品、自分の言葉になります。その人なりの言葉の料理の仕方が、その人の個性になって、人に伝わります。
ちゃんとお話したことがないけれど、この人はさばさばしていて良い人そうだなあとか、気が合いそうだなあと思う要素の中には。少なくともその人の言葉の料理の仕方からくるものがあって、その言葉を表現するための声、しぐさ、表情、すべてひっくるめて「その人」を表現しているのかなあと思います。だから同じ言葉をしゃべっていても、全然ちがう風に聞こえる。
たとえば「ベイビー」って単語ひとつでも、ごつごつのすごいハードな格好をしているひとが歌みたいに言うのと、麻のマキシなワンピースを着て赤ちゃんを抱きながら言うそれとでは全然意味がちがいます。そういう言葉を自分でコーディネートするのって、意識するとちょっとおもしろそうですよね。

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河野さんの授業を受けて思ったのは、言葉の表現は本当に幅広いということ。ただ人に文として伝えるのではなくて、見た目、聞こえ方、なにか言葉ではないものと言葉が結びつくと、言葉の魅力や個性はこんなにも増すのだなと実感することができました。自分が話すその言葉を素敵なものにしていけるかどうかは、自分次第。
河野さん、ありがとうございました!

(まちの教室スタッフ 岩間夏希)