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私がまちをつくり、まちが私をつくる

『あなた自身が、あなたのまち。(You are your city.)』
今回の講師、紫牟田信子さんが「シビックプライド」をあらわすものの一つとして紹介していた言葉です。

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自分自身がまちだとしたら、自分のまちへの態度ってどうだったんだろう。
私は、今住んでいる松本市に対して、環境もまちの人も好きなんだけど文句は言っちゃうみたいな、反抗期の家族のような関係だなと思ったりします。
でも、自分=まちなら、文句は自分自身に返ってくるってこと。どうしたらまちが改善するかも自分次第ってこと?

都市に対する市民の誇り、当事者意識に基づくまちへの愛情やまちの一員であることの自負心を「シビックプライド」と言います。
なんだか、難しい言葉のように感じます…。
まちの教室、2016年最後の授業のテーマはこの「シビックプライド」をみんなで考える授業。

紫牟田さんとシビックプライドとの出会いは、福井市の地域経済活性化プロジェクト「おいしいキッチンプロジェクト」から。
一つのブランドの中で数社の企業が複数のユニバーサルデザインを用いた製品を作り出し、売り上げの数パーセントを福井市の運営に還元するというものでした。
「これってシビックプライドじゃない?」と言われ、「そもそもシビックプライドって何?」と紫牟田さんは気になり始めます。
そこから伊藤香織さんとシビックプライド研究会を立ち上げました。

「シビックプライドって難しい言葉のように感じるけど、
『私このまちに住んでて毎日家の前を掃除してます』
『すごくアムステルダムが好きで、いつか住みたい』なんていうのもシビックプライドなんじゃない?と思ってきたんです。」

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その後、伊藤さんと一緒に「シビックプライド」をテーマにマンションの再開発のプロジェクトに携わります。
マンションの建つ場所はもともとゴルフ場のあった場所で、何もなかったところにマンションが建つということは一つのまちが出来上がるということ。
出来上がってくるこのまちがどんなまちだったらいいかを考えようというプロジェクトで、あらゆるところにまちと人の関係を考える広告を掲載しました。
キャッチコピーが「話したくなる、街に住もう。」
ここには「街の人と話したくなる街」「街の外の人に話したくなる街」という二つのミーニングがあります。

また、もう一つのコピーが『人が町を作るのだけど、町も人を作るのだと思う。』
「町ってだれかが作ったものじゃないよね。そこに住んでいる人たち、そこに来る人たちがまちの雰囲気をつくっていくよねって。
ここには何か循環というか回りまわっていくものがあるよね。」

なんとなく「シビックプライド」像が見えてきた気がします。
自分自身がまちを作り、まちから自分に返ってくると考えると、
まちは誰かが作っていくものだ、行政が作っていくものという考え方ではなく、誰もがまちの一員であるという考え方になり、
自分がまちの中でできることを考えていく、というのが「シビックプライド」。

さらに「シビックプライド」には3つの考え方があると紫牟田さんは言います。
一つは「市民の社会参画」。一つはこのまちいいよねっていう「都市アイデンティティ」。最後にクラブチームへの応援にみられる「熱狂的愛郷心」です。
この全てを満たすとシビックプライドなのではなくどれか一つでよいので、そう考えると、「あ、あれってシビックプライドなのかも!」ということが見えてきます。
例えば、著書の中でも紹介されているのが松本市の「工芸の五月」。クラフト作品が街中で展示・販売され、触れて楽しむことができる松本市の大きなイベントの一つです。確かに、「松本っていいよね」ってよくまちの人もまちの外の人もいうのですが、その「いいよね」って雰囲気を作る一つのポイントだと感じます。暮らしを見つめて、よりよくしていこうと考えてクラフト作品を選ぶ人が多いような雰囲気。

また、シビックプライドはシティ・プロモーションに使われています。
移住というのはまちの中にいる人が誇りをもってまちを良くし、外にいる人がファンになることで起こるもの。
これもまちの中と外の誇りの循環の中で生まれてくる動きですね。

こうして考えるとシビックプライドはぐるぐると巡る気のような動きをしています。
加えて、シビックプライドは他者のシビックプライドの様子から自分の中のシビックプライドが育ってくるもの。それは同時に自分のシビックプライドが他者のシビックプライドを育てていく動きです。

これらのシビックプライドを育ってていくことを考えるときに、都市の性質の変化やパブリックとコミュニティの違いなどを考えていく必要があって、今後福祉の現場でも大切になっていくだろう…というお話の中、「あーわかんない!(笑)」と紫牟田さん。
「こども食堂」という共働きの子供向けの食堂に、おじいちゃんおばあちゃんも肩を並べて一緒にご飯を食べるという光景がみられ、これはなんなんだろうという、どうしたらこういった循環が他でもできるか、と考えている途中とのこと。
シビックプライドとその使い方は私たちもまだまだ考えられるということですね。
私たちはどのようにまちに関わっていけるでしょう?

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およそ1時間のお話のあと、参加者のみなさんからつぎつぎと質問が投げかけられます。
シビックプライドを可視化する意味、人の巻き込み方、編集や企画するときのポイント
などなど、時間が足りなくなるほどでした!

授業中嬉しかったのは、「まちの教室もシビックプライドだよね。こうした人と人のつながりのなかでシビックプライドが生まれてくる。」という言葉。
知らないうちにシビックプライドを育てる側に回れていたとは!
シビックプライドと名前を付けてないだけで、シビックプライド的な動きをしていることはたくさんあるのでしょうね。
「それってシビックプライドだね!」と見つけてあげることもシビックプライドの育て方。
だから、自分のまちにどんなシビックプライドがあるか探しにいこう、と思います。

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(まちの教室スタッフ 越智風花)