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変化に対応する「余地」

「はじまってしまったコミュニティのその後」と題し、nanodaのきっかけとなった三田の家をはじめた坂倉先生を講師に、長野県内のコミュニティや場所を運営する3人と共に5回目となる「しおじり まちの教室」が開催されました。

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「はじまってしまった」ってどういう意味?「その後」って今?未来??考えれば考えるほどわからなくなる今回のテーマ。東京から塩尻までの移動をイベント化し(→ Facebookイベント)車中から話し続けてきたという講師の坂倉さんと、授業コーディネーター山田さんの熱気がそのまま会場に持ち込まれて授業はスタートしました。
まず、山田さんは「あなたにとってどうしてコミュニティが必要なのか?」と会場に問いかけます。合わせて、大北地域でLODEC Japan合同会社を運営する、たつみかずきさん、上田市でコワーキングスペースHanaLab.の運営にかかわる柚木真さん、まつもと空き家プロジェクトの東礼華さんを紹介、最初の問いかけを意識しながら聞くと、長野県内各地でコミュニティを運営する話の別の視点が見えてきます。たつみさんと柚木さんに共通するキーワードは意外なもの。それは「寂しさ」でした。社会的な目的があってはじまったとばかり思っていた活動は、周りに同世代がいない、知り合いがいない、仲間を作りたいとういう個人的な寂しさが原点だとは思いませんでした。出会った仲間と楽しいことや困ったことを共有していく過程で、今日につながるいろいろな活動が生まれて来たそうです。

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講師の坂倉さんはこの3人の活動を「既視感」があると言います。
坂倉さんが最初につくった「京島編集室」は、2ヶ月限定で借りた商店街のお米屋さんだった場所。「何かをしたい」という目的があったわけではなく、「そこに住む」ことからはじめたそうです。
閉じていたシャッターを開け、そこに住むことで、通りがかりの人が覗き込み、中に入り込み、奥に追いやられ、次に覗き込む人を迎える立場となっていく。目的がないことが、逆に活動の「余地」を生み、関わった人が自分がやりたいことをはじめていったそうです。
この人の動きは山田さんによる、nanodaの活動の話と重なります。坂倉さんの言葉を借りつつ大学の先生風に説明すると「場に参加して、そこに受け入れられたと感じることで仲間意識が生まれ、だんだんと周辺的役割行動をはじめて、最終的に主体的行動を始める」という他者関係の変化が生まれていく・・・というもの。この「余地」という言葉が印象的でした。仕事では自分の立場があり、やることやできることが決まっていますが、コミュニティには「余地」があり、自分の意思でどこまで動くかを決められます。その範囲の広さ、柔軟さがコミュニティの魅力につながると感じました。

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はじまってしまったコミュニティは、その目的もそこに集まる仲間も時間とともに変わっていきます。
人間は年齢とともに考え方が固まっていくという話を聞いたことがありますが、コミュニティもその通りで、続けていくためには、変化に柔軟に対応できる「余地(=やわらかさ)」が大切なのだと感じました。

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(まちの教室スタッフ 古屋治彦)

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坂倉杏介(東京都市大学都市生活学部准教授、三田の家LLP代表、NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事)
東京都市大学都市生活学部准教授、三田の家LLP代表、NPO法人エイブル・アート・ジャパン理事。多様な主体の相互作用によってつながりと活動が生まれる「コミュニティ・プラットフォーム」という視点から、地域コミュニティの形成過程やワークショップの体験デザインを実践的に研究。「芝の家」や「ご近所イノベーション学校」の運営を通じて港区の地域づくりを進めるほか、様々な地域や組織のコミュニティ事業に携わる。

山田崇(塩尻市役所企画政策部 企画課シティプロモーション係 係長/空き家プロジェクトnanoda代表)
「地域の課題を想像でとらえるのではなく、実際に住んでみないと商店街の現状・課題はわからない」と空き家を活用したプロジェクト「nanoda(なのだ)」を2012年4月より開始。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」が話題に。2016年1月からは「MICHIKARA〜地方創生協働リーダーシッププログラム」を、首都圏のプロ人材との協働による官民連携プロジェクトをスタート。地方の課題解決を民間企業のプロフェッショナル人材との協働実施するプログラムの全国展開を目指す。グッドデザイン賞2016受賞。2016年5月から内閣府 地域活性化伝道師に。