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わたしの地元で撮影したみたいなんだけど、一緒に観に行かない?

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地域で映画を撮るということ。

近年、その年の大河ドラマの舞台となる場所は様々なメディアでもよく取り上げられるようになるほど大変賑わいますよね。
そんなロケの誘致が全国で競われるようにして行われているそうです。
制作側の視点でみると、撮影の日数が増えるとお金がかかることもあり、よりスムーズに撮影できる地域がロケ地として選ばれるそう。
撮影をスムーズに進めるには、その地域の人たちの協力が欠かせないといいます。
そのときに重要な役割を担うのが、日本全国、様々な地域にあるフィルムコミッションという機関。
フィルムコミッションとは、一言で言うと映画をはじめとする映像の撮影場所の誘致や撮影の支援をする機関のこと。その土地の魅力をプレゼンテーションしたり、撮影することが決まれば撮影場所の許可をとったり、エキストラを集めたり、スタッフさんの宿泊場所や食事を手配したりと、撮影をスムーズに行うためにありとあらゆる仕事をこなします。

諏訪地域では年間の撮影数がここ4、5年でぐんと増えていて、2016年8月現在で撮影の多い地域ランキングに全国で18位に入っているそう!
その数、年間で50~70本。ロケ日数でいうと約120日にもなるそうです。3日に1回はどこかで撮影が行われている計算になりますね。

ここでひとつの疑問が浮かびます。なぜ全国でロケ地の誘致合戦になっているのでしょうか?
今回の授業コーディネーターである諏訪圏フィルムコミッションの宮坂さんが地域で映画を撮ることのメリットを4つお話してくれました。

まず1つ目は「残る」ということ。
その地域の風景が記録として残り、その映画を観た人の記憶に残ります。

2つ目に「移住」につながる可能性があるということ。
たしかに映画の中で素敵な風景やそこに住む人々の営みをみると「こんな場所で暮らしてみたい!」と思ってしまいます。

3つ目に「経済効果」が期待できるということ。
スタッフの方の宿泊代や飲食代は当たり前のことかもしれませんがすべてその土地でまかなわれます。
また間接的にはその映画を観たファンがその土地を訪れることで生まれる経済もあります。

4つ目にその地域の人たちにとって「満足感」があること。
作品の中に自分が暮らす風景が映ったり、俳優の方がその地域に来ることで、その土地に暮らす人たちにとって満足感につながるそうです。
自分の暮らしているまちに自分の好きな俳優が来たら、たしかにうれしいことですね。

一本の映画にかける熱。

「こんな格好ですみません。今も撮影中で現場を抜けてきたんです。」
少し照れたような表情を浮かべ、作業用のつなぎを着て今回の授業の講師、今井正和さんが登場しました。

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講師の今井さんが映画制作で関わっているお仕事は、主に制作部から依頼されてロケの舞台をつくることだそうです。
今までに、真夏に雪が積もっているセットをつくったり(そのときは7トンの塩と綿で1ヶ月くらいかけてつくったそう…!)発掘現場のセットをつくったことがあるそうです。

今井さんは、つくったらそこで終わり、ではなく片付けもすべて自分たちで行うということに情熱をかけていて、
「ここまでやってくれるところはなかなかない」とよく映画のスタッフさんにも言われるんだとか。

また、舞台の制作以外にも現場でトラブルがあると連絡がくるそうです。

「泥にトラックがはまってしまったのですが、なんとかしてください!」
「(真冬に)トイレの水が凍って流れないのですが、なんとかしてください!」
「(止まっている映像を撮りたいので)水に浮かぶボートを静止させてください!」

こんな少し無茶なお願いにも、建設会社という強みを活かしたり、これまでの人脈や経験を駆使して今井さんは全力で応えていきます。

”建設会社を経営している今井さんが、映画制作になぜこんなにも突き動かされたのでしょうか?きっかけは何だったのでしょうか?”
参加者の方から今井さんへ、ふと疑問が投げかけられました。

真剣な顔で、すこしの間じっと考えた今井さんから出てきた答えは、「映画制作をする人たちの映画にかける熱」でした。
初めて撮影に関わった時、いろんな立場の人たちが1つの作品をつくるために集まるときの熱が積み重なって1本の作品になることのおもしろさを感じたそう。
そして自分もその要素のひとつになれれば、と思い関わり始めたそうです。
朝から晩まで、時には深夜にまで及ぶ制作ですが、完成した映画が公開されるときに仲間たちとつくりあげたという達成感や、映画を観たお客さんの反応が次へのモチベーションにつながっているのだとおっしゃっていました。

そんな宮坂さんや今井さんたちの努力が、ここ数年、ロケ地の問い合わせ件数増など結果として現れてきているそうです。
今井さんが授業の中で何度も繰り返した言葉「(映画を撮った人たちに)諏訪で撮影してよかったと思ってほしい。またやりたいと思ってほしい。」そんな言葉が現実になってきているようです。

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「大きなアクションが撮影できる、よりも、まちぐるみで映画をつくる地域にしたい」

諏訪圏フィルムコミッションが設立されてから今年でちょうど10年。
今回の授業コーディネーターの宮坂洋介さんが東京からUターンし、たったひとりで立ち上げました。
自分の仕事の範囲を決めず、ロケ中は仕事がないときも常に現場に入る宮坂さん。
「朝から晩まで一緒にいないとつくる側の気持ちがわからない」と常に現場に同行しているそうです。
現場は毎回同じことがないため、初めてのことだらけ。
本当に小さな積み重ねの中でここまで来れたのだとお話していました。
10年という節目の年に、これからの夢についてお聞きすると、
「大きなアクションが撮影できる、よりも、まちぐるみで映画をつくる地域にしたい。」という言葉が返ってきました。例えば地元出身の監督を応援したり、「ロケ誘致やフィルムコミッションを一過性の”ブーム”ではなく”文化”にしたい。」とこの地域で暮らすいろいろな立場の人たちがもっと映画に関わることができたら、とお話していました。

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この土地でロケしたことを知ってもらうには?

今井さんと宮坂さんから参加者の方にこんな質問が参加者に投げかけられました。
実はお二人とも、映画の舞台の場所と撮影する場所が異なる場合、どこで撮ったのかわからなかったり、全面的に映画のロケ地として使ってくれていたらわかりやすいけど、一部しか使われない映画ではどの地域で撮影したのか映像を観る人の意識までのぼらないことに頭を悩ませていたのです。上映館数が多い作品ほどPR方法などが細かく決められていて、そのためロケ地独自のPRなどが規制されていることも多いそう。

映画館で観る人だけでなく、今はDVDを借りて観る人も多いから、映画公開のタイミングでの広報が難しいのであれば、公開後のDVDの発売などに地元のPRを合わせてもいいのでは?

今はインターネットで簡単に調べられる時代だから映画を観る前後にその映画を検索する人も多いのではないか?そこでリーチするようにアーカイブをしっかりすれば、もしかしたら引っかかるのではないか?

今井さんや宮坂さんなど個人がブログなどで映画の裏話など発信していけば、そこに対してファンができるかもしれない、、、などなど映画の公開後にPRする発想や、個人が発信する視点などが参加者の方から意見として出されました。

自分の暮らしているまちで撮影されているというだけで、なぜだか少し誇らしい気持ちになりますよね。

「わたしの地元で撮影したらしいんだけど、一緒に観に行かない?」
ふと、そんなデートの誘い方もありだと思いました。

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(まちの教室スタッフ 小口真奈実)