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物語を食べ、非日常を味わうレストラン

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あぁ、なるほど!ぼくらは食の「情報」を食べる時代に生きているんだなぁ……と、今回の授業を受け終えて思いました。

「三ツ星レストラン」や「郷土食」、「安心安全」、最近ブームの「発酵食品」などなど……。ぼくたちは実際に食べ物を自分の舌で味わう前に、それにまつわるたくさんの情報に接しています。今では「食」というのは、単純に味覚をはじめとした五感だけで判断することはほとんどできないのかもしれません。

そこでぼくが感じたのは、それが良いとか悪いとかではなく、そうであるということを前提にして、どうやってぼくらは「食」との関係を築いていくかを考えることが必要なんだなということでした。

日本に眠る愉しみを料理する「DINING OUT」
これはきっと、今回の授業「都市と地域の美味しい関係。−食を通じた地域の魅力」の授業コーディネーターも、講師も、料理人ではなく、「食」にまつわる環境を生み出すお二人だったからかもしれません。
授業コーディネーターの厚海さんはクリエイティブディレクターとして、講師の粂さんは編集者として、食にまつわるブランドやそれと出会うきっかけを生み出しています。

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なかでも、粂さんが関わっている「DINING OUT」は、日本のある地域に注目し、その土地の食材や文化を素材として、東京をはじめ国内外で活躍する料理人やクリエイターが「料理」をし、数日間だけの野外レストランをオープンさせてしまうという企画です。

その第1回が行われた新潟県佐渡は、日本にある能舞台の三分の一が集中するほど、能が盛んに行われている地域。そこで参加者は、神社の境内で能を鑑賞し、幽玄の世界の余韻に浸りながらディナーを味わいます。

佐賀県有田で行われた回では、名物・有田焼とのコラボレーションを行い、いくつかの窯元が今回のためにオリジナルの器を制作し、食卓を彩りました。
(詳細は『DINING OUT』のwebサイトをチェックしてみてくださいね!)

開拓者に「発見」される「地域」?
こうした話のなかで、特にぼくが気になったのは、食に関する「都市と地域の目線」についての話でした。

「DINING OUT」を例にとれば、「この土地の新たな価値を見いだそう」という都市の人々の目線によって、その地域は見られています。
その地域にとってはごくありふれた食材が、シェフの手にかかり、まったく違ったプレゼンテーションで見たこともない料理に生まれ変わる。さらには、その辺にある瓦が器に変身したり、切り株がプレートになったりと、食材だけではありません。

きっと、都市の人々からすると、「いつでも・どこでも」食べられる画一化された食に対して、それぞれの土地の風土に裏打ちされ「この時に、ここでしか」食べられない、土地の物語に満ちた食というのはとても魅力的に映るのかもしれません。

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しかし、これは「DINING OUT」に限ったことではないのですが、こうした地域というのは、まるで大航海時代のように、都市から「発見される」しかないのでしょうか。
地域から都市を、またはその地域が自らをまなざす「目線」というのはあるのでしょうか。

そうしたなかで、「DINING OUT」が一つ教えてくれたのは、レストランという「非日常の空間」を持ち込むことで、地域が自らを見る目線を変えようとしているところでした。

その地域に長く暮らせば暮らすほど、見慣れた食材や文化を見直したり、語り直すというのはなかなか難しいものです。要するに、農村で「食堂」をやっても、それは日常の風景の一部でにしかならない。それを「レストラン」というある種の儀式的な舞台に乗せることで、目線を変える。
しかも、個人的におもしろいとおもったのは地域の人がサービススタッフとしても関わるなど、受け手としてだけでなく、作り手の側として、その舞台に参加もできるところでした。なんと、一定のクオリティを目指して、夜な夜な地域の体育館に集まって本格的なサービスの練習をしたのだそう……!
これは、ここ数年増えてきている地域を舞台にした芸術祭とも似た構図で、アートという「非日常」を地域に持ち込むことで、その土地の人が地域を見る目線を変えるひとつの機会になっているように思います。(『観光資源化』しているということも似ている。)

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一方で、粂さんいわく「DINING OUT」には、まだ和食の料理人がひとりしか登場していないのだと言います。
「例えば、お刺身を出す時に、私たちの普段の『お刺身』のイメージを圧倒的に超える形で提供することはとても難しいんです。だから、どうしてもフレンチなどのシェフが多くなっていますね。いかにクリエイションができるかは重要なポイントだと思います」。

物語の見せ方、食べさせ方は無数にある
今回の授業の参加者のなかには、自分の住む地域の「食」について、どうにかできないかと考えている方が何人もいらっしゃいました。

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茨城出身の方が言うには「茨城は納豆と干し芋を名物として県外に売り出しているのに、実際に茨城それを食べられる場所はほとんどない」ということでしたし、長野県伊那市の方は「休日に開催しているマルシェにお父さんたちがきてくれない」、同じく県内の茅野市から参加された方は「棒寒天の国内シェアNo,1なのに、地域内ではなかなか上手に売りだせずにいる」と悩みを語っていました。

冒頭でも述べたように、現代はよくも悪くも、食の「情報」を食べる時代です。
もちろん、食べ物としてちゃんと「おいしい」ことは前提として、食を通した地域との関わり方には無数の可能性が残されているように感じます。とりわけ、地域が地域をまなざす目線にはまだ未開拓の方法も多い。それは「DINING OUT」のように食に「物語」を添えるのでもいいし、「非日常」というお皿に載せて提供するのも、方法の一つだということがわかりました。

授業の最後、厚海さんは「今度、飯綱のりんご畑などでセルフDINING OUTをやりたいと思います」と締めくくりました。飯綱ならではの「食」にどうやって触れられるのか、今から楽しみです。

そういえば、2013年に「しののい まちの教室」が記念すべき第一回授業を行ったのも、篠ノ井のりんご畑でした。今回の授業をきっかけに、ここでもスピンオフ企画が生まれないかなぁ。

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粂さん、厚海さん、そしてご参加いただいたみなさま
ありがとうございました!

(まちの教室スタッフ 小林稜治)

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粂 真美子(フードエディター)
埼玉県川越市出身。出版社でのアシスタントを経て、レストランや旅を中心としたフリーランスのライターに。その後、『東京カレンダー』『料理王国』の副編集長を務める。現在は、レストランをはじめとした食文化、日本酒、国内海外の旅をメインに雑誌、Web、書籍の取材・執筆活動を行う。2012年には、『世界のベストレストラン50』でレストランジャーナリスト犬養裕美子さん推薦のもと選考委員となる。地方の文化や自然に光をあて、料理や演出を通じて地域の新しいストーリーを発信する試み『DINING OUT』では、シェフのキャスティングを担当している。

厚海 俊司(クリエイティブディレクター)
長野県長野市出身。出版社で編集者、広告営業など多岐にわたる業務に携わった後、アメリカのキャラクター・マーチャンダイジング企業においてSPディレクターとして活動。その後、外資系メーカーのクリエイティブディレクターとして化粧品ブランドを中心に担当。その他、ホテル・レジャー事業会社のブランドマネジャーとして、企業ブランディングを行うなど、一貫して消費者とブランドの中間に身を置く。現在は、自身のブランド「PICNIC on the MOUNTAINS」のクリエイティブディレクターとして、長野と東京の2拠点を行ったり来たり。飯綱町のカフェ「TEISHABA」のオーナーでもある。