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「野菜」と「摘み草」の境目

6月のしののい まちの教室午前授業のテーマは、「摘み草」!
売木村を摘み草で盛り上げることに成功した、NPO法人つみくさの里うるぎ理事長の後藤和彦さんと、自分の庭で摘み草を育てて摘み草を研究する、長野電波技術研究所の寺澤幸文さんによる、摘み草の魅力を五感で感じ、楽しむ授業でした。

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会場に摘み草を運ばれてくるなり、さまざまな摘み草の香りがふわっと漂い、早速調理がはじまります。
授業時間が近づくと、参加者の方々も集まって、まだ授業が始まっていないのにも関わらず、様々な質問が飛び交います。

「あそこにある植物はなんですか?」
「あ、あれはイノコヅチといって、….」

「これってどうやって調理したら美味しいんですか?」
「これはですね、結構アクが強いので…」

調理しながら寺澤さんは大忙し!その説明に参加者のみなさんが輪をつくって、うんうん頷いていました。すでに授業のよう。
…と、次第に料理もでき、いい匂いが漂ってきたころで、正式に授業がスタートです!

摘み草料理の材料は、スタッフが早朝採った、新鮮な摘み草ばかり。それらを実際に食べながら、摘み草料理がどんなものなのかを学んでいきます。

まず最初は、モヒート。

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ミントを潰して香りを出し、ライムジュースと炭酸水で割って飲むドリンク。お酒はラム酒を入れると美味しいそうです。ミントは一般的に飾りとして使用されているので、親しみのあるハーブですが、これも立派な摘み草。氷を入れて、キリッと冷やしていただきます。

ミントが潰したことでふわっと香って、酸っぱくて美味しい!
会場に氷の音がカランカランと響いて、一気に涼しく。参加者のテンションもあがります。

次に寺澤さんがテーブルから採ってきたのは、アカザとシロザ。違いは、葉や茎につく赤い粉と白い粉なのだそう。みんな手にとって触ってみます。
そして先人が持っているあの杖は、実はアカザでできたもの!軽くて丈夫で…と説明していたらアカザの杖が登場!これもみんな珍しそうに触って確かめます。

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一緒にアカザの胡麻和えもいただきます。食用にもなるし、道具にもなる摘み草…不思議です。

こちらはドルマ。

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ドルマとは、辛味の効いた、米、タマネギ、挽肉、香味野菜などの混ぜものをキャベツの葉やブドウの葉で包んだ料理のことです。日本で言う、ロールキャベツ。
インタビュー(http://www.naganocampus.net/interview/1474)でも話題となったこの料理。もともとキャベツではなく、葡萄の葉を使っていたんだそうです。
私はこのタネを葉に巻く作業をお手伝いしたのですが、中身をぎゅうぎゅうに詰めて、ちょっと引っ張ったくらいじゃ全然破れない!キャベツよりもしっかりした葉。また、包んで乾パスタで巻き止めするので、そのままぱくっと食べれちゃいます。
キャベツよりも葉が小ぶりなので、一口サイズのドルマ。これが衝撃。しっかりした葉なので肉汁が逃げず、まるで小籠包のように肉汁がじゅわっと口の中に広がります!葉も噛み応えがあって、ロールキャベツとは一味違う料理になっていました。

そして、授業中後藤さんが揚げていた天ぷらも、揚がったそばから試食です。
売木村のつみ草食堂では、「魅せる天ぷら」として摘み草の形がちゃんと見える衣の付き方になるように、工夫しているそうです。今回の授業でも、この「魅せる天ぷら」を披露してくださいました。

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左に見える天ぷらはクズという摘み草の天ぷら。表面にたくさんの毛が生えていて、舌に残りそうで、私は実は少し食べるのを躊躇しました…。
というのは見た目だけで、もっちりしていて、でもさっくり、ごまのように香ばしくて、全然舌に残らない!
また、誰でもそこらに生えているのを見かけるドクダミも、揚げるとクセも飛び、適度な風味が広がる天ぷらに。
こういうの、普通に料亭とかで出てきても他の食材に負けないのに…!野菜は出せるのに、摘み草は出せないんだろうか?

寺澤さんは、摘み草と野菜の間には境目がないと言います。

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私も、今回の授業で摘み草に抵抗がなくなった身で、スーパーで野菜として売られているものに負けないくらい美味しいということが分かったので、もっと世に広まればいいのになあと感じました。参加者の方も、最初は恐る恐る口にしていた人だって、気付けばぽいっと口に入れるようになっているんです。クセが強いものだって、調理次第で旨みに変わって「ご馳走」です。
じゃあ、なぜ摘み草は何が違って野菜と別扱いされているんでしょうか?境目って何でしょう?

ここで、古文書が登場します。
長野の田舎の方の庭園には、専門的な知識をもとにご先祖さまが残した植物がたくさん生えていたのだそうです。戦争がきて食糧危機に陥ったときに、それを摘んで食べることで命をつないでいたのです。その頃の、これは何という名前の摘み草で、こうやって調理することで食べれますという記録が、この古文書です。中には1700年頃にトマトというものが知られていたことが分かるものや、醤油という調味料がない頃は梅干を潰して、お酒とかつおだしを混ぜた調味料があったこと、民間療法として使われていた野菜があることが分かるものもあります。

古文書には、摘み草が生み出され、生活に馴染んで、今に至るまでの人と野菜の営み・歴史が記されているのです。
つまり摘み草は野菜の原点。野菜と摘み草の境目がないというのは、歴史を辿ればつながっているということだったんですね。
今私たちは、「スーパーにあるもの=野菜」という感覚がどうしてもありますが、すべての野菜の中から、クセが少なくて、採りやすくて、食べやすいものだけが、「野菜」としてスーパーに売られてしまっているだけなのです。

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このことからも寺澤さんは、自分の庭で摘み草を育て、食べる人が増えてほしいそう。取りに行くとなると1日かかってしまったりして大変だけれど、食べたいなと思うときに自分の庭から取って来ればいつでも新鮮だし、香りもよい。また、摘み草の畑は他の作物と畑に一緒に植えることができて、他のものと争いながら育っていくので、ミントなどは香りが強くなったりするし、旬の時期に旬のものが出てくる。季節のものを食べるという旬な行いを、気軽にはじめることができる上、原点に立ち返ってみることで、野菜と摘み草の境界がなくなり、より生活が豊かになるきっかけになるのです。

ちなみに、もし山などに生えているものを自分で採るには、ちゃんとした知識が必要になります。
今年も報道されていましたが、水仙とニラは毎年間違い食中毒を起こす方がいて、今年は死亡事件まで起きてしまいました。フグの毒より野草の毒の方が強いとも言われているほど、その毒は脅威です。
ちなみに、昔毒草は薬草としても使われていたものもあるそうです。つまりは、量を考えなければいけないということ。薬の「用法・用量を守って正しくお使いください」があるように、そういう危険なものもあるということも頭に入れつつ、採らなければいけません。

また、後藤さんのお話では、売木村でよく摘み草をする人はなんとなく顔見知りだから大丈夫、というのがあるけれども、時期になると、他の地域からたくさんの人が取りに来てしまうそうなんです。山には所有者がいます。摘み草をするなら、ちゃんと先に断りを入れることも大切です。

見て、聞いて、触って、嗅いで、味わって。まさに五感で摘み草を体験できた今回の授業、みなさん余っていたミントを持ち帰っていきました。
野菜も摘み草もありません。すべてが野菜。先人の声が、その境界をなくしてくれました。

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(まちの教室スタッフ 岩間夏希)

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後藤 和彦(NPO法人つみくさの里うるぎ)
下伊那郡売木村にてNPO法人つみくさの里うるぎを運営。村のどこにでもある草の葉や木の実に価値を見出し、村おこしの宝にしようと活動。自然と共存共栄し、自然を生活の糧にし、経済効果を引き出していく発想が必要と、つみ草食堂のほか、摘み草の出荷も行い新しい産業に取り組んでいる。

寺澤 幸文(長野電波技術研究所)
信州大学工学部博士課程単位取得退学。篠ノ井にて、長野電波技術研究所を経営、農業研究行い、農業資材販売を行う。研究の一環で収集した江戸時代の文献約5000冊を公開し、個人図書館を開き、昔の知恵の活用を実践する摘み草を提案している。古文書図書館は真田丸などの参考資料として、テレビや書籍、市立図書館への提供も行っている。