report

空間をまちに開こう!たのしい公共空間のあり方とは

県立長野図書館にて3回にわたり開催される「可能性を形に。これからの『図書館』 想像(創造)会議」。このキックオフとなる講演会の企画コーディネートをまちの教室をご依頼いただき、これからの図書館の可能性ついて考えるワークショップに先立ち、スターパイロッツ三浦丈典さんに、公共空間のあり方ついてお話をいただきました。

2016061801

「公共」とは誰のもの?

「公共空間」というとみなさんはどんな空間を思い浮かべますか?
図書館、公民館、公園、学校…まちには様々な公共空間があります。
さて、これらは誰のものなのでしょうか?
三浦さんの答えは市民のもの。公共は「民」と「官」の間にあるけれども、あくまでも「民」の中の「公」であり、「官」はそれを支える役だといいます。市民のこんなことがしたい、こういう場所が欲しいという声を実現させるために、「民」の代表である「官」が具体的にアドバイスし、「公」として実現させる。
これが、三浦さんの考える「公共」の考え方のひとつです。

「職業的市民」

豊かな公共空間をつくるために必要なのが一人でも多くの「職業的市民」。
職業的市民…?初めて聞く言葉ですよね。それもそのはず、三浦さんが先日生み出したことば。簡単に言うと、「住民=市民ではなく、パブリックマインドをもってやるべきことをやっている人を市民と呼びたい」三浦さんのそんな想いから生まれたことばです。

まだピンと来ない方も多いはず。では、「職業的市民」とは何を意味するのでしょうか。自らが職業的市民であるという自負はないとおっしゃる三浦さんですが、他人のことはもっとわからない!ということで、三浦さんご自身のお仕事や暮らしのお話から、理解を深めてみることにしましょう。

まちに開き、まちに認められる

三浦さんのご実家は東京都内の病院。その病院のビルが使われなくなり、空きビルとなっていたところを、現在は自宅兼オフィス、そしてハウススタジオとして利用しています。
空いた病院のビルを使うときに、お母さまから渡された条件が、「近所のひとが気軽に入れること」。今まで病院に通ってくれたご近所さんに支えられてここまできたのだから、みんなが気軽に立ち寄れる場所にして欲しいというお母さまの想いでした。近所のひとが入れるオフィスを考えたときに思いついたのが、ワークショップ。毎回さまざまな先生を迎え、こどもたちが楽しめるワークショップを開催しました。三浦さんが先生の回には、ダンボールでお家をつくろうというワークショップで、オフィスがおうちでいっぱいに。こうして、まちに開く空間となった、元病院のビル。今では、夏になると屋上を子供たちに開放し、映画祭なども行っています。屋上の開放は、近所のビルに連鎖したようで、気がつくと近くの屋上にも灯りが!楽しいことは自然と広がっていくようです。

実は、実家に戻ってきた当初、三浦さんはなんとなく居心地の悪さを感じていました。
しかし、建物を外に開くことで、自分自身がそこにいてもいいよ、と周りから認められる感覚に気がついたのです。

建物が内に閉じていてその箱のなかで完結した空間であるならば、極端に言えばもしかしたらそのまちではなくてもよいかもしれません。しかし、建物が外に開き、同時に心理的にも開放されることで、そこが単なる居住や仕事のための空間ではなく、まちの中の自分の居場所になります。さらに言えば、自分の居場所というだけでなく、結果的にまちの人々の居場所にもなっているのです。

>2016061802

ビルのなかに公園を

最近は、設計事務所でありながら、「こういう建物を作って下さい」という依頼よりも、「空いた空間をどう使ったらよいのでしょうか?」という、お悩み相談のような依頼を受けることが多いそうです。東京の木場公園に隣接するビルの1階の空きスペースをどう使おうか悩んでいるという相談にも、三浦さんは空間を外に開いて楽しくすることを提案しました。コンセプトは通常の公園で禁止されていることを全部できる楽しい屋内公園という、子供心あふれるユニークな発想。1階部分をビルの中でありながら、外部空間と捉え人工芝を敷き、公園とつなぎます。ここで、大切なのは、新しくなにかを作ることではなくて、今あるものをつなげること。内とも外とも言えない不思議な空間が生まれました。こうしてオープンしたプレイルームとカフェを合わせた親子カフェは、ママ世代の間で大きな話題になり、予約を取らないと入れないこともある盛況ぶりです。

三浦さんへの依頼内容が、新しく建物を作ることよりも、空間の利用方法に関することが増えているということからも、新しく創造する時代から、今あるものから創造する時代へと移行していることが伺えます。そう考えると、空き家やシャッター商店街など使われなくなった空間も資源。すこし子供心にかえって、あの空いた空間で何ができるかを想像するだけでも楽しくなりそうですね。

非効率化が豊かさをうむ

長野県にも三浦さんが手がけた空間があります。
2015年のグッドデザイン賞金賞を受賞した道の駅FARMUS木島平です。
人口5000人ほどの小さな農村には、かつて多くのひとが働いた食品加工工場が手つかずのまま15年間もの間放置されていました。それを、村が買い取って農業の6次産業化の拠点にしようということで誕生したFARMUS木島平。閉ざされた工場をまちに開き、6次産業化を見えるようにするため、生産拠点を敢えてばらばらに配置。共有のホールに人の流れが生まれ、それが一般の人にも見える空間設計になっています。非効率化することで、目的の異なるさまざまなひとが場を共にし、日常の豊かさと楽しみが生まれます。効率化こそが豊かだと考えられてきたこれまでには、敢えて非効率化するなどありえない考えでした。しかし、限界まで効率化を突き詰めた結果、少しずつ人々の価値観は変化し、食の世界で言えば、生産されたモノよりも、その過程に価値が見出されるようになってきているのですね。

こっそり、ごっそり、まちを楽しく

これからの時代、迷惑かけ合わないと楽しくないという三浦さん。
これまで三浦さんが活動してきて気がついたことは、
上手に甘えるコツは、上手に甘えさせること。
つまり、まちに甘えたり甘えられたりすること。
三浦さんは建物をまちに開くというかたちでこのことを具現化しているのだと、私は感じました。

そして、モノが溢れる消費社会のいま、モノの背景にあるストーリーに共感することが求められる時代になっています。「共感される物語」をつくることこそが社会を変えるエンジンなのです。急激な人口減少時代において、私たちは今までと同じでは通用しない社会を迎えています。三浦さんのお話や、著書には、そんな社会を楽しく生き抜く、ちょっとした、でもたいせつなヒントがたくさん散りばめられているように思います。

職業的市民とは「自分の生き方をデザインすることが、みんなの場所をデザインすることであるという感覚を持っている人」。つまり、自分の人生と公共空間を地続きにして考える人のこと。
たのしい公共空間を発明する未来の職業的市民が一人でも増えるよう、三浦さんからこどもたちへの46の指令で講演会は幕を閉じました。
(この46の指令は三浦さんの著書『こっそり、ごっそり、まちをかえよう』にまとめられています。未来をすこし別の視点で想像できるような指令がつまった一冊です。)

2016061803

三浦さんの講演を踏まえ、翌日からはいよいよワークショップが始まりました。
職業的市民としての考え方を、実際の公共空間にどう落とし込むことができるのでしょうか、楽しみですね!

(まちの教室スタッフ 杉田映理子)