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古材がもっと身近な未来を。

しとしとと雨の降る上諏訪の街、会場であるReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)には40人以上もの方にお集まりいただきました。オープンに向けて工事真っ最中、新しいことが動き出す匂いのする空間に、みなさん興味津々!
「絶対、楽しくなると思う!こんなに広いけどすでに手狭になる気がして心配!」と笑うのは、リビセンスタッフの華南子さん。リビセンではスタッフのみなさんがとにかくにこにこ、わくわくしているのが印象的です。

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世の中に見捨てられた物語を救う場所
授業コーディネーターの東野唯史さんが代表を務めるリビセンは、建築建材のリサイクルショップにカフェを併設した空間づくりを進行中。これまでは奥さんの華南子さんとmedicalaというユニットで、全国各地に「いい空間」を生み出してきた東野さんですが、medicalaの活動は一旦終了し、今年リビセンを設立しました。medicalaの時から変わらないのが、みんなで空間を作ること。medicalaの最新の作品がこの夏にリニューアルした松本のブックカフェ栞日で、私も工事期間中に通りかかるたびに色々な方がお手伝いしているのを目にしていました。街ゆく人も、これまで閉じていた空間が急に活気づき何事だ!?と覗き込む様子も。特に、ランドセルを背負った小学生が窓ガラスに張り付き興味津々な姿はなんとも微笑ましかったです。
現在の諏訪の現場にも、情報を聞きつけた人が手伝いに集まります。みんなが手伝ってくれるという、そのエネルギーごと空間の中に閉じ込めるそう。「あそこの壁は私が塗ったんだー!」なんて言えると、空間にひときわ愛着が湧きますね。

東野さんがリビセンの活動や、これからの展望を語るなかで、印象的だった言葉があります。それは、建物の解体時に廃材や家具を引き取ることを指す「レスキュー」。リビセンの中では日常用語でもあるこの言葉こそが、リビセンの理念を物語っているのではないでしょうか?
その理念というのは、「Rebuild New Culture = 価値を見出すこと」。
世の中から見捨てられ、ゴミとなったものにも使えるものはたくさんあります。リビセンはそういったものたちを、できるだけ形を変えずに、そのままの素材の魅力を活かした状態で、価値を見出し、再び世の中に送り出します。古いものをただのリサイクル品として引き取るのではなく、そのものが背負ってきた歴史、担ってきた役割、それから持ち主の想い…そういった「物語」を含めて「救って」いるのだと感じました。

古いものへの想い
さて、ここからは講師原さんのお話に移ります。
東野さんが5年ほど前に古材に触れるようになる、その前から、古着や廃材、古材の文化を見てきた原さん。実は、高校時代には「古いもので食べていくもんか!」と教師の道を志していたそうです。
というのも、原さんはブリキおもちゃのコレクターだった父親の影響で、物心着いた頃には古いおもちゃに囲まれる生活。小学校の頃の得意技は、父親に伝授されたゴミ漁りで、黒いゴミ袋の中に何が入っているかを、音で聞き分けていたそう!
粗大ゴミから拾ったものが、骨董市で売れた時には、幼いながらに物が売れる喜びを感じていた一方で、ただ単に古いものを売って稼ぐという考え方には抵抗がありました。

幼い頃から古物に触れていたからこそ古物に関わる職業を選択するというのは、一見すると自然な流れのようですが、実はむしろ抵抗感があったというのはなんだか意外です。
でも、この抵抗感というのは決してマイナスなものではなく、原さんが古いものがもつ背景や意味に目を向けているからこそのものではないかと思います。
単なるリサイクル品として古物を扱うのであれば、買い取ってからできるだけ傷や歪みを直して、使いやすい状態に修理することもできます。しかし、原さんの経営するSTORE IN FACTORYやstudio trussでは必ずしも完全な修理は施しません。
古材には懐かしい風合いや現代の技術では作れないといった価値がありながらも、傷や歪みなどのマイナスの側面を持ち合わせ、お客さんはその両側面を合わせて好きになる。
この、すごく個人的な商材であるという部分が原さんにとっての古材のおもしろさだといいます。

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古材を通して文化や思想を伝えたい
長く古いものに触れてきた、原さんが倉庫兼店舗であるSTORE IN FACTORYを運営する中で、芽生えた2つの考え方があります。
ひとつは、もっとたくさんの人たちに古材を使ってもらいたいということ。
もうひとつは、古材には良い部分も悪い部分もあり、自分たちはそこにあまり手を入れすぎない段階で、動いていく商材であって欲しいということ。
きっと、手を加えれば、傷を消すことも歪みを直すこともできます。しかし、レスキューしたものたちに手を加えることは、そのものたちが背負ってきた物語を取り去ってしまうことにもなるのではないかと、私は思いました。

2年もするとSTORE IN FACTORYは古材でいっぱいに。そこで、集積してきた古材を材料に、家具などの製作所であるstudio trussをSTORE IN FACTORYの斜向かいに併設しました。作りたいもののために材料を集めるのではなく、ある古材でできるものを作るというスタンスで続けています。材料の買い付けは主にアメリカから。年に3回通っています。日本では、家具家電のリサイクルショップはあっても、古材・廃材を販売しているお店は、なかなか見かけませんよね。けれど、アメリカでは古材を買うことであたりまえの文化で、一般の人もReBuilding Centerなどに通います。
原さんは直接買い付けに行くことで、仕入れたものだけでなく、そこで育まれている文化や、古物を通して自らの思想を伝えるということ、古物との関わり方も一緒に持ち帰りたいと考えています。そして、日本で古物を販売すること通してそれを伝えていきます。

意義よりも楽しさを
原さんが古材で自分のお店の空間を作り始めた、いちばん始めの動機は「お金はないけど、よいものをつくりたい」ということでした。store in historyにはじまり、次々と出店していくなかで、自分たちの活動と社会との関わり方は一体何なのかを日々考えるようになったそうです。
古材を売買する以外の要素としてSTORE IN FACTORYのテーマに掲げたのが「不便を楽しむ」ということ。古材は何かしらの欠点をもつ商材であるため、古材をポジティヴに捉えてもらうためには、まず自分たちが不便な生活を楽しむことから始める必要があると、原さんは考えています。
便利で楽な方向へ進んでいく社会に、敢えて不便さを持ち込むことは、一種の遊び心のよう。古家具の傷が動物の顔に見える!という発見があったり、机のガタつきを直すのに頭をひとひねりさせたり、そんな生活もきっと楽しいだろうなあ、と私も想像が膨らみます。

もうひとつ、原さんの信念とも言えるのが「正しいことはかならず広がる」ということ。
これからの社会に対して、古材を使った生活というのは原さんなりの正しさがあり、広がっていく考え方であると信じています。
しかし、持続可能な社会のためには意義だけでなく経済的基盤が必要です。文化を広く深く根付かせていくためには、これまで古材に振り向くことのなかったお客さんが、古材に興味を持つための活動もしていかない限り、意識の高い人々のひとつの思想で終わってしまいます。自分たちだけで活動していくことは簡単だけれども、周りに広めていくことが大切でむずかしいこと。古材のある生活がとても楽しいということが伝わっていくことを原さんは強く望んでいます。

カフェにお茶をしに来たお客さんが、なんだかおもしろそうと古材に興味を持ったり、廃材が持ち主の想いを引き継いだ家具に生まれ変わったり、諏訪のリビセンが古材と暮らす楽しさを発信する拠点として活躍する予感!

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原さんのお話のあとには、会場は様々な質問で盛り上がりました。中には実際に解体作業やDIYをしてみたい!という方も。これには、原さんも東野さんもやってみるのがいちばんというお答えでした。興味のある方はリビセンのお手伝いをしてみるのも、良い機会かもしれませんね!(お手伝いにはリビセンFacebookページなどからの事前連絡をお願いします。)現場に行くのが難しい方は、クラウドファンディングでの応援もできます!(9月26日までのプロジェクトです。)

(まちの教室スタッフ 杉田映理子)

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原佳希(株式会社スタジオトラス 代表取締役/有限会社magic children 代表取締役)
2006年、有限会社magic children設立。2008年、ビンテージ古着とプレタポルテが融合するショップ、store in historyを名古屋市大須に出店。2009年にuncle living、2010年にUNCLE DECOと同市内にアンティーク雑貨を取り扱うお店を出店。同年、名古屋市中川区の築70年の木造倉庫をリノベーションし、古材や建築資材を取り扱うSTORE IN FACTORYをスタート。2014年、STORE IN FACTORYの斜向かいに古材を加工し家具などを製作する、studio trussを併設。2016年、STORE IN FACTORYとstudio trussを分社化し、株式会社スタジオトラスを設立。

東野唯史(株式会社ReBuilding Center JAPAN 代表取締役)
「いい空間」をつくる空間デザインユニットmedicalaとして2014年より活動開始。代表作に東京蔵前のNui. 下諏訪町のマスヤゲストハウス、松本市の栞日など。現在は建築建材のリサイクルショップReBuilding Center JAPAN設立のために準備中。