interview

この時代における本の可能性を一緒に考えたい。

「綴る手、刷る手、届ける手〜リトルプレスの将来性〜」より、3年。題材となった「WYP vol.0.5」の続きとなる、「WYP vol.1」デンマーク特集が発行されました。その発行を記念して、前回は海外渡航中のためにお呼びできなかった、編集長の川口さんをお招きして、まちの教室を開催します。

当時(およそ3年前のまちの教室、WYP編集部を招いて栞日旧店舗にて開催した授業で)話したことって覚えていますか?振り返りも含めて。

タイトルが「綴る手と刷る手と届け手」で、副題を「リトルプレスの将来性」ってしてて、当時は「vol.0.5」、2冊目が出た年(今回のWYPが3冊目にしてようやく「vol.1」)だった。綴る手が制作者のWYP編集部で、刷る手が(WYP vol.0.5の印刷を担当した)藤原印刷。届け手が僕自身で小売店。当時は栞日ってリトルプレスの専門書店みたいなことを名乗ってて、SNSとか誰もがメディアとして自分の考えとか意見とか感情みたいなものを発信して表現できる時代に、なぜ未だに紙っていう媒体にこだわって情報の発信とか意見の表明とかをしようとする人たちがいるのか。紙のメディアがもつ可能性、マスに対して発行される週刊誌とか月刊の雑誌とかではなくて、個人が個人のペースで自分の表現としてつくる紙媒体って今後どうなるんだろうってところを話したかった。
判型として「WYP vol.0.5」はとにかくでかい(笑)こんなでかいものをわざわざ作らんだろうって。内容としても、渋谷のヒカリエ「aiiima(アイーマ)」っていうギャラリースペースを使って、(自分たちと同世代の働くことへの考えを)インタビューして、それを書き起こし、そこにギャラリーを見に来た人が、考えたこと感じたことを書いていく。それをそのまま本にしてるっていうね。紙の本ができる可能性みたいなのを、この一冊の本をつくるプロセスにも感じるし、印刷で遊んでる部分でも感じるし。そういう意味で、藤原印刷も招いてつくる側の意識とそれを受けて印刷側のトライアルというか何をやりたかったのかっていうのを聞いたのが前回の授業でした。

そこから、「リトルプレスの可能性は双方向性だ」というような話にまとめていました。

個人から個人に対する手紙のような紙媒体、メディアがリトルプレスで、コミュニケーションのボリュームが小さいからこそ、濃度が高いコミュニケーションができて、基本的に紙媒体って一方通行、つくった側が読む側に知らない誰かを介して手渡すというか流したらそこで関係性としては終了みたいな感じだけど、リトルプレスの場合は制作者と読者がかなり近い距離にいてそこに噛むのが書店、しかも独立系書店が噛むか噛まないか、場合によっては直通もあるみたいな感じだから、「読みました」みたいな読者とのやりとりが生まれる可能性が高いし紙媒体のメディア、出版物なんだけど双方向性があるのではないか、みたいなところに確かに落ち着いたと思う。

それを経て、彼らがどうか変化したかですよね、聞きたいのは。

vol.0.5からvol.1までに3年かかってるんですよね。

こういうリトルプレスの発行頻度の平均ってどれくらいなんでしょうか。

平均はとりようがないかな。vol.1が創刊した割にvol.2が出ないのものもすごくたくさんあるし、僕もvol.1って書いてあると期待して入荷するけど、ずーっと出ないまま聞くと「もうやってません」みたいな話になっちゃったりとかもよくある話だし、かたや、きっちりきっちり半年に1回出す出版物もあれば、もう本当に自分のペースで出せるときに出すっていうスタンスの方たちもいるから、インターバルも本当に人それぞれとしか答えようがない。
前回の授業でやった時点でも、次のことをもう言ってたんだよね。次号を作る予定ですとか、次号に向けてもう編集会議をしていますとか。実際(その後にも)連絡もらってたんですよね。次号デンマーク特集になって取材班が要するに編集部が取材に入り始めました、とか。なので、今回はまずなんでこんなに時間がかかったのか聞いてみたい。でもそれは単に責めたいわけじゃなくて。
彼らのWYPってテーマが「(雑誌をつくることとは別に会社などで)働きながら(つくる)」ってことで。働くっていう価値観を日本社会で生まれ育った僕たちは「働くってこういうこと」って知らず知らずに成長していく過程で誰に教わるでもなく認識してしまっているけれども、本当にグローバルスタンダードなんだろうかって疑問に思って、日本で言う働くって他の国とか地域に行ったら違うかもしれないしっていうところからスタートするんだよね。本当に働くってどういうことなんだろうみたいな問題提起から彼らはスタートしてて、創刊号では彼らが思う真逆の価値観を持っていそうなインドに行ってみるっていうところからスタートしていた。当時、彼らはそのとき社会人1年目とか2年目で大卒してしばらくしましたぐらいの若手で、だいたい僕と同い年だったっていうのも彼らと話してみたいっていうきっかけでもあって。全員会社員だったんだよね。会社員やりながらこういうことを個人の活動とかチームの活動としてやってて、インドの次に日本国内の同世代のゲストを招いて展示をしながら彼らにインタビューするっていうことを試みていて、基本的に働きながらっていうのが彼らのアイデンティティでもあるし、働く合間に何かを、制作物をつくるっていうのにトライしているっていうのが彼らの特色でもあって、だからこそのインターバルをあけての3冊目だったんだろうなってところがあるんだろうなっていうのは想像に難くないんだけど、どんな働きながらをしたからこれだけの時間がかかったのかっていうところをまずは聞きたいかなっていう風に思ってる。

確かに、当時は(雑誌をつくったときに全員)会社員だったというのがすごいインパクトがありました。

実際(vol.0.5を発行したときから変化して)あの授業をやった時点で何人かがもう会社員じゃなくなっていて、且つ近い将来全員が会社員じゃなくなる予定がすでに立っていたんだよね。実際、今は誰も会社に勤めていなくて、メンバーそれぞれ国内だったり海外にいたり散っている。

そういえば、栞日では最近リトルプレスって言ってないですよね。その変化も少し聞いてみたいなと。届け手としての、リトルプレス専門店としての菊地くんが今はちょっと変わっていますみたいな状態と、彼らのスタンス、雑誌づくりとか働き方へのスタンスの変化みたいなところと、同世代だからこその立脚点みたいなのをちゃんと整理しとかないとと思って。たぶん授業の中で同じなんだけど、意味が、もし前回来てくれたとしたら、ちょっと違うよね、ということがあるような気がしていて。本当に本人たちに聞いちゃうと授業そのものだから、まず菊地くんとしてはどうなのかなって。そもそもリトルプレス専門店っていつまで言ってましたか?

やっぱり違うなって明確に意識したのは、くらもと古本市で、ひとつの蔵(書籍販売スペース)をまるごとディレクションした年があって。2015年。
小規模出版物の一つとして、「りんどう珈琲」の著者である古川さんとクルミド出版の影山知明さんを招いてそのお二人の対談を僕が進行するっていう形でトークイベントやったんだけど、そのときに影山さんが「僕らはよく小規模出版って言われるんだけど別に僕は小規模でやりたいわけじゃないんだよね」って。発行部数は多ければ多い方がいいと思ってるし、たくさんの人に届けたら届いた方がいいと思ってるってことを言っていて、そのときにちょうど僕もリトルプレスっていう言葉に多少違和感を覚え始めていたときで。(予算の都合などで)50部しか印刷してないけど、決して50人にだけ届けばいいとは思ってなくて、あわよくば1万人に届けたいと思いつつ、スタイルとしては自分で制作して発行して流通させようとしてるだけで。だから、必ずしもリトルじゃない。だから最近は独立系出版物という言葉を使うことが多いです。

今回呼ぶ川口さんもその独立系出版物を仕事にしてますね。

奥さんと2人で真鶴出版っていう出版社をやってますね。

出版社だから、本を出版して儲けてるっていうことですよね。どのくらい多いと生活できるのか…

いや、どうしてるんだろう。つっこんだところまで聞けたらたのしいね。真鶴出版は泊まれる出版社っていうのをやっていて、うちもその分野やってるからなんか共通点的にもあるし。
メンバーそれぞれ今どうやって食ってるの?っていう話も。会社務めしてないから、全員。一人ひとりそれぞれが何かしらの食い口を見つけながら、これ(WYP)をつくってる。これも別に彼らの収入源にはなってない、収入源というかある程度にはなるだろうけどこれを食い口にしてるわけでは全然ない。WYPは会社じゃないし、そもそも。言ってみたらこれはサークル活動みたいなもの。それぞれの活動があった上でプラスαでこれをやってるから、メンバーそれぞれ今どんなことをしてるのかって聞きたいよね。
(そう考えると)なんか流れとしてはね、すごく自然だなって思うけどね。そのデンマークっていう選択は。日本の対極にあると考えたインドの、でも何ていうかな。今成長率が高い国をまずはみて、今度日本に戻ってきて同世代で働く価値観が面白そうな人たちにインタビューをし、いわゆる幸福度が高いと言われる北欧諸国の中でも先進国に数えられるデンマークで働くっていうことを捉え直す。流れとしてはきれいだなぁって思うから。海外国内海外に戻ってくっていうのは。そのWORLD YOUTH PRODUCTっていうもう一回世界のことを考えるみたいなところで創刊されるっていうのはきれいなことだけど、なんでデンマークだったんですかっていうことももちろん触れたいし、これを読めばわかることかもしれないけど、デンマークで見聞きしてきたことをざっくりこれのダイジェスト版みたいな形で口頭でも教えてほしいと思うし、その制作過程とか結局3年という月日がかかった経緯とか理由とかを聞く中でそれぞれメンバーに何が起きたのかとかを語ってもらえると思うし、当日はそんな感じで進めていくような気がしますね。

全てを今決めきる必要はないと思うし、聞いてみたいと思っていることが当日になったら全然変わってることもあるかもしれないし。前回は最終的にはリトルプレスの可能性っていう大きなところにいったじゃん。今回はどうしますか?

そういう大きなところはどこにしましょうね。まだ決めてないですよね。出版記念トークっていうのが着地なのか、そうじゃなくて違うところにもってくのか。まぁわかんないけどね。話の中で出てくるかもしれないけど。そのテーマみたいなのは最終的に。未だにこのメディアの可能性を感じているのかとか、そういうことには触れてみたいですね。もちろん。
ぼく自身リトルプレスという言葉に違和感を覚えて、最近はリトルプレスを名乗らなくなったみたいに彼ら自身ももしかしたら3年という月日を経て87年生まれでしょ。だから彼も今年30になるかもうなってるかしてるはずだから、世代的にもいろんなことを考えて見聞きして経験してるはずだから。

これ自体が彼らにとって生活のプラスαとしてやってる余暇だとしたら、30に差し掛かってくると子育てとか家庭とか、そういうところの諸条件が、それぞれの家庭環境にもよるけど、プライベートの状況においてやっぱりそういう時間がなくなってきたりするじゃない。だけどやっぱり続けたい、続けようという意志がこのvol.1という数字だろうし。たぶん(笑)

0号のときに序文の方で「僕ら自身も働き方っていうことがわからないから、読み手と一緒にそこを考えたい」っていう話を書いてるんだよね。たしか。彼ら自身が働くっていうことを考えるために制作してるっていう側面があったというかそれがWYPのすべてだと思うから3年経って彼ら自身も会社をやめてそれぞれの働き方を、少なくともまずは見出して歩きはじめてるはずだからそういう意味ではもうなんか彼らにとって働くことを考えるためのWYPっていうもの、拠り所というか活動が必要なのかわからないよね。もう彼らはそれぞれの働き方を見出してるかもしれなくて、だとしたらもうWYPっていうものは彼らにとってそもそももう必要ないかもしれなくて。活動としてね。

そのへんすごく気になってるんだよ。どうなんだろって。

だとしたらもうここで終わってもいいはずだし、僕らは自分の働き方を見つけましたってところで終わってもいいはずだし。

それがさ、見つけたから見つけない人へメッセージとか言い出したらつまらないと思うし。もっと探求しなさいよ、みたいな。教えることを伝えるって、もっと年を取ってからでいいよって単純に思うんですよね。学生とかが最初、何かを感じてほんとに行動に移して面白かったけど、他の人に伝えるって言った瞬間にスケールが小さくなってつまらなくなるってよく見る。自分たちがやりたいことをガンガンやってる、みたいな方が好感が持てて。教えることを職業で選ぶのは別だけど。

WYPはこれから何をしたいのかとか、そこら辺も含めて聞いてみたい。今回からWYP自体の肩書が「生きるを探るトラベルマガジン」になってる。もう働き方っていう言葉がここから抜け落ちてるからもう彼らの中ではこれを出した時点で働き方をWYP自体から脱皮させてる可能性があって。もう少し広い視野で働くっていうことももちろん含めた、もしくは働くっていうことをコアに据えた生きるってことについての考察をするために世界っていう規模で物事を考えようとしてるのかもしれないし、そこら辺がすごい興味があるよね。

見つけたところで悩みから脱却されるってことは絶対ないけど。悩みは更に深くなるだけですよね。なんかたのしくなってきました!

聞き手/まちの教室スタッフ 瀧内貫
サポート/まちの教室スタッフ 賜萌子

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【vol.059】まちの教室(松本)
「だから僕らは本で伝える」

雑誌『WYP』編集部を、3年ぶりに松本に迎えます。
先月発売された最新号「Vol.1 DENMARK 僕らは生きる国を選べる」の内容や制作経緯についてはもちろんのこと、前号から今号までの3年間でメンバーそれぞれに起きた変化についても、編集長・川口さんにお尋ねします。
また、2015年から神奈川に移住して〈真鶴出版〉を始めた川口さんには、地方で出版業を営む生き方を選んだ理由や今後のビジョンも伺います。
今回の授業を通して、この時代に「本」というメディアを選び続ける意味を探れたら、と考えています。

開催日時/2017年8月27日(日)19時00分開始(18時30分開場/授業は2時間程度を予定)
会場/栞日 sioribi(長野県松本市深志3-7-8
定員/30名程度
参加費/1,000円+1drink order
講師/川口瞬(WYP 編集長/真鶴出版 代表)
授業コーディネーター/菊地徹(栞日 店主/ALPS BOOK CAMP 主催)

主催/栞日 sioribi、まちの教室

\お申し込みはこちらから/
http://www.naganocampus.net/class/1759

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菊地徹
1986年静岡県生まれ。大学在学中にSTARBUCKS COFFEEでアルバイト。これをきっかけに自分の仕事として喫茶店を志す。卒業後、松本の旅館に就職。その後、軽井沢のパン屋に転職するも、松本の街の規模感や城下町文化が恋しくなり、約1年で松本に戻る。2013年「書店あるいは喫茶店」〈栞日〉を開業。直販の独立系出版物を中心に選書している。2014年よりブックフェス「ALPS BOOK CAMP」を主催。2016年同店移転リニューアル。