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土地に触れる、ちいさなきっかけ

1年のうち最も松本の街にひとが集まるのではないかというくらいに、今年も賑わいを見せたクラフトフェア初日の夕暮れ、今月のまちの教室は、コーディネーターの菊地徹さんが営む栞日にて開催されました。こぢんまりとしたギャラリースペースはぎゅうぎゅう詰めの超満員。始まる前から熱気のこもった会場で、授業スタートです!

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講師の平山貴士さんと、菊地さんが出会ったのは昨年1月のこと。
平山さんが盛岡市内で営むインテリアショップHolz(ホルツ)に菊地さんが訪れたことがきっかけでした。実は、予てから松本のみやげものをプロデュースしたいと考えていた菊地さん。そのために、いわてんどから風土の届け方を学びたい、ということで、今回の授業開催に至りました。
(企画意図について、詳しくは、授業コーディネーターインタビュー 「いわてんど」に学んで松本土産をつくりたい。 をご覧ください)

本業は家具屋さん

高校時代、ファッション誌のモデルが座っているイスに興味を持ち始めた平山さん。特に、イームズチェアに惚れ込み、それがきっかけでインテリアの道を志すこととなりました。東京のインテリアショップ勤務を経て、岩手にUターンしHolzを開業、今年で13年目になります。振り返れば初めて、地元のもののよさを感じたのは東京で働いていたときのこと。勤めていたインテリアショップで、販売されていた南部鉄器が、「なぜここに岩手のものが?」と思いつつもかっこよく見えてきたといいます。このときの衝撃は、南部鉄器を使ったオリジナル商品の誕生にもつながっています。

Holzの商品構成は、家具と小物が半々くらい。イームズチェアから始まっているので、自分のなかでは家具屋だけれど、家具も小物も同じくらい好き。でも、お客さんのニーズによって雑貨屋と言われたり、家具屋と言われたり。
菊地さんもこれには共感。栞日も何屋かと聞かれたら本屋だけれど、お客さんにとってカフェならそれでいい。何屋かはお客さんが決めるけど、本屋のつもりでやっている、と。

大前提は、好きなもの

今でこそ、いわてんどという屋号まで持つ平山さんですが、Holzをオープンしたときには、岩手のものを仕入れようとは思っていなかったといいます。南部鉄器のものはあったけれど、それはたまたま置いていただけ。その考えは、開業から10年以上経つ現在も同じで、岩手だから仕入れようとはあまり思わないそうです。あくまでも、ものを販売するお店なので、ものがいい、平山さんご自身がそのものを好きというのが大前提。それが岩手で作られたものであれば最高。どちらの想いが先かという、順番なのです。

Holzにはオリジナルの商品がいくつもありますが、商品についての語りを聞いていると、平山さんのものへの強い想いが伝わってきます。特に、南部鉄器のペーパーウエイトは構想はあったもののシンプルな形ゆえに3年もの間実現することができず、途中あきらめかけたことも。しかし、喫茶店でそのことを呟いたことがきっかけで、職人さんを紹介していただき、やっと形になりました。

お話を伺っていると、好き!楽しい!つくりたい!といった、想いの部分が平山さんを動かしているのだろうと感じました。そのためか、オリジナルグッズを作るときも、作りたいものを形にしているだけで、あまりデザインしているという感覚はないそうです。専門学校時代に大嫌いだった図面も、作りたいものとなれば話は別、手紙のように図面を書きます。

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自分の土地でのふつうを、遠くの土地へ

実は、いわてんどが始まったきかっけは、仙台の平山さんの知人店でHolz展をやらないかという誘いがあったことでした。やりたいけれど、Holzだけでは荷が重い…普段から付き合いのある岩手の作家さんたちと合同で開催した企画展が、のちにいわてんどとなりました。初めはオファーを受けての出店でしたが、回を重ねるうちに「遠くの土地で、自分の土地でのふつうがふつうでない」という気づきに面白みを感じ、積極的に各地で出店。単純に遠くへいくことが好き、ということも、続ける原動力になっています。

「自分の土地のふつう」これがつまり「風土」なのではないかと、私は解釈しました。
ことばや食、気候、匂い、ものに対する感覚…土産物やいわてんどの商品にはそのような「風土」が託されていて、それを持ち帰ることは「風土」を持ち帰ることのような気がします。

数人に伝わればいい

「岩手のことを外の人にがんばって伝えよう!」という使命感はないという、平山さん。
ただ、やることで何かしら伝わる人が1人や2人は絶対にいる。規模的に何百人にも伝えるということではなく、4〜5人おもしろいって思ってくれたらいいかな、というくらい。その4〜5人が岩手に興味を持ってくれたり、もともとちょっと興味持っていたけどいわてんどもその理由のひとつになったとか、それくらいの規模でいいのかなと。実際に、東京や北海道で開催したいわてんどのお客さんが、盛岡まで足を運んでくださることもあるそうです。菊地さんも同じように考えていて、松本みやげも、もともと松本のことを知らなかった人に知ってもらえたり、松本土産を買った1〜2人がいずれ松本に訪れたいと思ってくれればいいなと。

この「使命感の無さ」が、いわてんどの商品のかっこよさや、長く続く規模を保つのに大切なことなのではないかと感じました。伝えようとしすぎると、かえって伝わらなかったり、説明をしすぎて分かりにくい、ということがあるように。

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松本と盛岡

今回、松本にいわてんどがやってきたことで、私もその4~5人のひとりになりました。なんのつながりもなかった岩手、盛岡という土地が、なんだか少し身近に感じました。

会場設営をしている時、お客さまから一言「松本と盛岡って似ていますよね。」
授業のなかでも少し触れられたことですが、平山さん、菊地さんを含め、実はそう感じているひとが少なくないようです。山にかこまれ川が流れる風景、駅から公園までの距離感、城下町としての街並み、民藝運動の流れが残っていることや、気候、気質も。まだ盛岡に訪れたことはありませんが、松本の街が大好きな私は、きっと盛岡も好きになるだろうと思います。平山さん、次は盛岡でお会いしましょう!

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(まちの教室スタッフ 杉田映理子)