report

「手作り」を守り続けるということ

今回の授業は、これまでの「まちの教室」にはなかった授業形式。

いつもは講師をお呼びして授業をしていただいてきましたが、
今度は私たちが講師の現場へ。

手作りで本を作り続けて60年の上島松男親方がいる、
伊那の地にある美篶堂を訪ねました。

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授業を通して本物の“職人”の世界を垣間見てきました。

上島親方のお人柄は、きさくで豪快な印象。
それでいて情熱にあふれていて。
授業がはじまる一時間前から、早めにきた参加者に語り始めていました。
予想外のスタートにスタッフもびっくり。
しかしそれほどの熱い思いをもった方でした。

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手製で本を作ることにひたすら思いを傾けてきた、一筋の生き方。
それだからこその言葉が、お話の中で溢れていました。

「日本の洋本づくりの歴史は浅い
浅いだけで終わらせちゃまずいと思った」

「基本的にどんなに難しい注文が来ても断らない
私ができないって言ったら誰もできないんだから」

特に印象に残った言葉です。
その信念といいますか、自信あふれる男気と職人の心に、はっとしました。

これと決めたものに対して真摯に向き合う。
自分の役割をしっかりと受け止めること。
どしっとした心構え。

職人業をつとめていたからこそ培われていったことなのでしょうか。
製本に限らない、生き方についても示唆に富む言葉が親方から語られていきます。

気づけばいつの間にかお話を自分のあり方に重ねて聞いていました。
未開だった分野に自ら切り込んでいく姿勢。
どんな大変な注文や仕事にたいしても必死にくらいつくこと。
自身を成長させるだけに限らず、
自ら何かを作り発信していくことの重要性を感じました。

私もこういう風にお仕事をしたい
今からでもできることはたくさんあるよな
と、静かに親方から鼓舞させていただきました…!

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これまで親方自身が作ってきた特注の装飾本は、本の域を超えていました。
まるでひとつのアート作品のような。

「こういう遊びも入れたらたのしいでしょ」

感嘆する参加者たちに、親方は笑顔でこたえます。
遊び心もある素敵な方でした。

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続いては美篶堂の工場長によるブロックメモ制作実演。
職人さんの手はごつごつしていましたが、
その印象に相反するように、繊細な動きで紙を整え、断裁していきました。
日々の鍛練があるからこそ、それが手にあらわれてくるのだなあとしみじみ。

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個人的に、紙をまとめるための糊をはけで塗る瞬間がすきでした。
こんなになめらかな動作があるのかと。
久しぶりに人のする所作で美しいと思いました。

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コーディネーター土田さんからのおいしい飲み物をいただいた後は、

みんな自分の好きな色の紙を選んで、オリジナルの中綴じノートを作りました。
目の前に何十色と並べられた紙に迷う参加者たち。
選んだ15枚の紙を、その場で工場長たちに製本してもらいました。

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改めて、今回の授業、かなりぜいたくなものだったと思います。

社会科見学みたいだって一瞬思ったけれど、
それよりもっともっと深いものがあるような気がしていて。

振り返ると、それは一つの文化を心身で学ぶということにあったと思います。
上島親方と工場長のお話、制作見学、本を手にとって質感を確かめる。
それを全部現場で体感したこと。
参加者の目にどんな形で映ったにしろ、
この文化が学びという形で継承されていく瞬間だったのでしょう。

美篶堂に行くまでの道は、視界が開けた緑美しい一本道でした。
伊那にある美篶堂、ぜひ一度訪れてみてください。
素敵な本とノートたちが待っていますよ。

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(まちの教室スタッフ 吉本博美)

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上島松男(美篶堂)
1939年東京生まれ。東京空襲で長野県上伊那郡美篶村(当時)に疎開。15歳で老舗製本会社に入社し製本技術を習得し、1983年美篶堂を設立。昔ながらの手造りの技術とオリジナリティを活かし、手造り製本をはじめ、ペーパーサンプルや和本一式、特装本の他、函、パッケージなど、紙にまつわる様々なアートクラフトワークに参加。美術製本展など個展多数。現在は取締会長。